2026年08月31日

<ハルメク エッセー講座作品集>「長年の疑問」大井洋子さん


随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。ハルメクeventsでは、第12期にご参加のみなさんが提出した作品の中から山本さんが選んだ「みなさんに読んでもらいたい作品」を公開しています。
第12期2回目のテーマは「そろそろ」。大井洋子さんの作品「長年の疑問」と山本さんの講評です。


長年の疑問

ある鳥の鳴き声が、夫には「ピッピッピッピッ」と聞こえるのに、わたしには鈴音のように高く、「リンリンリンリン」と聞こえます。不思議がっていると、
「お前、耳が悪くなったんじゃないのか」


木更津に住み始めて、そろそろ11年になります。
当初、この鳴き声に惹かれ、姿を確かめたくて双眼鏡を持ち歩いたり、名前が知りたくて近所の人に尋ねましたが、誰も興味を示しませんでした。
春から初秋にかけてしか聞こえないから、渡り鳥なのでしょうか。
空高く波打つように飛んでいく、あのシッポの長い鳥だろうかと思いましたが、確かな手がかりはつかめません。


家の辺りは、水田とアシ原のような休耕田に囲まれていて、訪れる鳥が多いから、バードウォッチングに最適です。
アオサギが、突如として頭上を飛ぶ姿を見たとき、翼の内側の青黒い色と、圧倒的な大きさに息をのみ、あまりの迫力に足がすくみました。
用水路脇で、カワウが羽を広げて休み、田植えが終わったころ、親鳥の後を懸命に追うカルガモの雛に心を癒されます。
でも3〜4年前、家の前の休耕田だった土地に、アパートが立ち並ぶと、当たり前のようにいたシラサギさえ、あまり姿を見せなくなりました。


ずっと分からなかった「リンリンリンリン」と鳴く鳥の名前。
このエッセーを書くのを機に、長年の疑問を解決しようと思い、調べていたらようやく判明したのでした。
セッカ(雪加)という名前で、初冬に暖地へ移動する渡り鳥です。
スズメよりほんの少し小さく、色合いもスズメに似た淡褐色。この姿では、見分けられないのは無理もありません。
雄は繁殖期に空高く舞い上がり、波打つように飛んで鳴くそうです。
けれどもセッカのシッポは、思っていたあの鳥ほど長くありません。


人間の耳は、加齢とともに高い音から徐々に聞き取りにくくなっていくのだとか。
このことは、夫にはしばらく内緒にしておきます。


山本ふみこさんからひとこと

大井洋子さんは、安定して趣のあるエッセーを生みだすことのできる書き手です。長いこと、講座に連なっていただいていること、あらためて御礼申し上げたいと思います。

このたび、あたらしい表現方法に挑もうという考えを、お便りでお知らせいただきました。おそらく、この先、作品はふくらみをもつことでしょう。あたらしい境地をみつめることは、書き手にとってとても大切。昨日のわたしと、きょうのわたしはちがうわたしですから、ね。

「長年の疑問」、とても静かで、伝わるもののある作品です。生まれることを待っていたエッセーだと感じます。


通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは

全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は講座の受講期間の半年間、毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。