2026年09月30日

随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。ハルメクeventsでは、第12期にご参加のみなさんが提出した作品の中から山本さんが選んだ「みなさんに読んでもらいたい作品」を公開しています。
第12期3回目のテーマは「毒」。山本由理亜さんの作品「夜中のポテトチップス」と山本さんの講評です。
週末の夜、好きな海外ドラマを見ながら食べるポテトチップスは、なぜかいつもよりおいしい。
「こんな時間に食べたら体に悪い」と頭のどこかでは分かっている。それでも、一週間が終わった安心感の中で、ソファに座り、ドラマの続きを見ながら袋に手を伸ばす。この時間が私は好きだ。
夫が見たら、きっといい顔はしないだろう。夫は健康にとても気をつかう人だ。食品を買う時には、まず裏のラベルをよく見る。添加物にとても敏感で、体に良くないと思うものはなるべく口にしない。オーガニックという表示にとても重きを置いている。そんなひとから見れば、夜中のポテトチップスなど、お金をもらっても御免だろう。
一方の私は、そこまで徹底していない。もちろん健康でいたいし、ふだんの食事には気をつけている。でも、ときには甘いイチゴタルトも食べたいし、チーズハンバーガーを頬張りたくなる日もある。
健康に人一倍気をつかっている夫のほうが、私より疲れやすく、体力もないように見える。我が家の七不思議の一つだ。年齢が離れているせいかもしれないし、もともとの体質も違う。それでも夫を見ていると、ときどき「健康って何だろう」と考えてしまう。
体に悪いものを一つずつ遠ざけていけば、本当に健康になれるのだろうか。
「毒」という言葉には、悪いもの、避けるべきものというネガティブな響きがある。しかし、ほんの少しの「毒」が、心を元気にしてくれることもあるのではないだろうか。夜更かし、甘いもの、何もしないでだらだら過ごす時間。どれも健康的とは言えないかもしれない。でも、そういう小さな楽しみがあるからこそ、また明日から頑張ろう、と思えることもある。そんな「毒」も「スパイス」と言い換えれば、少しは罪悪感なく楽しめるのではないだろうか。
何でも「体に良いか、悪いか」だけで決めてしまったら、人生は少し窮屈になる気がする。
今週も一週間が終わる。海外ドラマの続きを再生して、ポテトチップスの袋を開ける。パリッという音がする。
体には少し悪くても、私にとってこの「毒」は、心の栄養なのだ。
いろいろの辛さ、せわしなさ、または緊張溢れかえる日日のなか、由理亜さんはこの作品を書かれたそうです。
ああ、こころが平らなんだわ、と感心させられました。穏やかに凪(な)いで、何事をもあたりまえに受けとめられる、という意味で「平ら」と書きました。
さて、「夜中のポテトチップス」。
読み手はすっかりうれしくなって、胸のなかでつぶやくのです。
「からだには少し悪くても、わたしにとってこの『毒』は、心の栄養なのだ」
ふと思ったのですが、タイトル「真夜中のポテトチップス」が、よりいいかもしれません。響きがね。
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は講座の受講期間の半年間、毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。