2026年10月31日

<ハルメク エッセー講座作品集>「料理を究める」大井洋子さん

<ハルメク エッセー講座作品集>「料理を究める」大井洋子さん

随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。ハルメクeventsでは、第12期にご参加のみなさんが提出した作品の中から山本さんが選んだ「みなさんに読んでもらいたい作品」を公開しています。
第12期4回目のテーマは「パン」。大井洋子さんの作品「料理を究める」と山本さんの講評です。


料理を究める

「朝はパンでもいいけど、おかずは作ってほしいな」
結婚してすぐ、夫にそう言われて「えーっ」と思いました。
女性誌の優雅な写真を見て、パンのある朝食に憧れていたわたしは、目玉焼きと牛乳に果物はバナナを並べようと思い描いていたのです。
それなのに、しっかりしたおかずを要求されるとは。


弁当用のごはんとおかずを作りながら、朝食用の食パンをトーストして、それに合うしっかりとしたおかずまで用意する。
想像しただけで、毎朝てんてこ舞いになりそうです。
ごはんなら、炊飯器のスイッチを押すだけで、主食が一度にできあがります。
という訳で、我家の朝食は、ほとんど365日ごはんとなりました。


子ども達にも弁当を持たせるようになると、「3分でできあがる料理」に関心が向くようになりました。
少しの湯をわかし、薄切りにした茹でタケノコと、もどしたワカメを投入。納豆についているタレと、醤油をちょっぴり入れて、さっと煮た若竹煮。
味付けがいい加減なのはご勘弁。でも、好評。
かまぼこにチーズをはさんで電子レンジでチン。いつもの美味しさ当たり前。味付けしてないからね。
使ったのは、包丁とレンジのボタンだけ。これはもはや、料理しましたと言うにはおこがましい。


あるとき、夫に聞いてみました。
「お腹がすいたとき、すぐごはんが食べられるのと、遅いけど美味しいのはどっちがいい」
彼は、少しも迷うことなく、
「絶対に、早く出てくるほうがいいさ」
一生懸命に時間をかけて作っても、3分で作っても同じなんだな。
だったら、簡単に、すぐできあがるほうがいい。


パンのある朝食に憧れていたわたしでしたが、こうして「ごはん・簡単・早い」という料理を究めていったのでした。


山本ふみこさんからひとこと

少しの湯をわかし、薄切りにした茹でタケノコと、もどしたワカメを投入。納豆についているタレと、醤油をちょっぴり入れて、さっと煮た若竹煮。
味付けがいい加減なのはご勘弁。でも、好評。

このくだりを読んで、倒れそうになりました。
ええ、うっとりとして倒れるのです。

ひとつのエッセーのなかに、書き手の食に対する哲学、家族観、率直さ、ユーモアがあらわれています。直接的に書かなくとも、伝わる、を証明していただきました。
だんな様のひとこと、「絶対に、早く出てくるほうがいいさ」も、効いていますね。



通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは

全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は講座の受講期間の半年間、毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。