2026年06月30日

随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。ハルメクeventsでは、参加者が提出した作品の中から山本さんが選んだ「みなさんに読んでもらいたい作品」を公開しています。
第11期6回目のテーマは「ポケット」。けらけらさんの作品「白新線(はくしんせん)にて」と山本さんの講評です。
白新線は新潟駅と私が住む市の新発田(しばた)駅を結ぶJR東日本の在来線である。当初、新潟市の白山(はくさん)駅発の計画だったので白新線という名称になったそうだが、始発駅が変わっても白新線のままなのがおもしろい。
新発田、西新発田、佐々木、黒山(くろやま)、豊栄(とよさか)、早通(はやどおり)、新崎(にいざき)、大形(おおがた)、東新潟、終点新潟まで普通列車で40分弱、田園風景を見ながらのんびり移動するのはたまにはいいものだ。
新潟県内に住む人は、県都新潟市に行くことを「新潟に行く」と言う。県外の人が聞くとおかしいと思うだろうがそうなのである。ちょっと都会に行くような気分になる。
今日は新潟駅で懐かしい人と会うために白新線に乗った。
近頃は電車に乗ると誰もがスマホを見始める。見ない人は少数で高齢者が多く、私もその一人である。普段は車に乗ることが多いので、電車に乗ると車内広告を見たり、乗客を観察したりするのが楽しい。
右ななめ前の男性はおそらく私と同年代だろう、スマホを出さずに車窓から外の景色をながめている。ハンチング帽と千鳥格子のブレザー姿で、網棚にスーツケースを上げていた。おしゃれだな、どこに行くのだろう?
私より少し先輩かなと思う左ななめ前の女性もスマホを出さず、きりっとした口元で目をつぶっている。寝ているのではなく、周りの刺激を遮断しているように見えた。リュックサックの大きさから一泊旅行かなと想像する。
少し離れた優先席にはなぜだか元気そうな10代か20代の女性が二人座っていた。
友人同士ではなく、一人はサンダル履きで長い足を投げ出して座り、スマホを見ていた。
もう一人は、スマホを出すかと思いきやトートバッグのポケットからハンドクリームを取り出した。そしてチューブのふたを取ってクリームを手の甲に出し、手のひらでゆっくり伸ばし始めた。それだけではなく、両手の指を一本ずつ付け根から爪に向かって引っ張っていた。時間をかけて丁寧にマッサージしている様子を見て、彼女は若いのに手が荒れているのだろうかと心配になった。
それが済むとハンドクリームをトートバッグにしまってスマホを取り出した。なんだかほっとしたところで新潟駅に着いた。
白新線(はくしんせん)、乗ってみたくなりました。
旅ごころを誘われ、ときめくのです。
けらけらさんの、観察のセンスにもときめきました。なんでもない風景のようで、読み手にもおぼえのある事ごと。読むうち、ひとつひとつが静かに光を放ちます。そして、結びとてもとてもいいですね。
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は講座の受講期間の半年間、毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。