2026年06月30日

<ハルメク エッセー講座作品集>「面倒くさがり屋のポケット」杉本とも子さん


随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。ハルメクeventsでは、参加者が提出した作品の中から山本さんが選んだ「みなさんに読んでもらいたい作品」を公開しています。
第11期6回目のテーマは「ポケット」。杉本とも子さんの作品「面倒くさがり屋のポケット」と山本さんの講評です。


面倒くさがり屋のポケット

「お母さんの作ったポケットはどれもズレてんだよなー」
「そうそう! 左と右のポケットの位置違うよな」
朝、着替えに出してきたズボンを、両手でつまんで前方に掲げて言う。双子の男の子2人が小学3年の頃だった。そうか。気になる年頃になったか。
上の3人の子どもたちにも、スカートや半ズボンは手作りしていた。お裁縫が得意なわけではないが、好きだった。私が子どもの頃は母親がほとんどの洋服を作ってくれた。自慢でもあり嬉しかった。私も母のように、子どもたちに、お手製の服を着せたいと思った。
習ったわけではなく、本を見ながら習得した素人だから、簡単なスカートや半ズボンしか作れなかった。本体は布を合わせ、布地に沿ってミシンを走らせればいいので簡単に出来た。しかし、どこか必ず不具合があり、不格好であった。でも子どもたちは、そんなことには気づかず、喜んでくれた。仕事を持ち、忙しい毎日を送っていたが、休日の縫いものの時間が楽しくもあり癒しを与えられてもいた。
子どもたちの要望があり、ポケットをつけるようになった。なかなかうまくいかない。少々不格好でも可愛く付いているし、ポケットの底に穴もあいていない。着てしまえばわからない。「大丈夫、大丈夫」と、着せていた。
上の子どもたちが、自分の服装や友だちの服装を気にし始めた頃、格好の悪いお手製のスカートやズボンを穿きたがらなくなった。「手製の服、卒業の時」と観念し、新しい洋服を買ったのだった。そして、今度は下の2人が、ポケットの不具合に気づき、不平を言いだしたのだった。


30年ほどが経ち、私は定年退職となり自由な時間が持てるようになった。あの時の、「ポケットが下手」は、気になっていて、洋裁教室に通い始めた。ポケットは29種類もあるのだが、初級では簡単な、布を張り付けたパッチ・ポケット。ズボンの両脇につけるフォワード・ポケットの2種類が過程だった。簡単なはずなのに、その技とコツを教えてもらっても上手くいかない。何度も縫い直しをくり返しているうち、丁寧さが無く、せっかちな癖のせいであることを思い知った。
そうだ。私には「面倒くさがり屋」と「せっかち」な性格があった。洋裁上達前に、この性格を直すところから始めなければならないようだ。


山本ふみこさんからひとこと

お忙しい日々のなか、4人のお子さんたちのスカートやズボンを縫われる……。なんていいんでしょう。物語のように読みました。
結びは反省風、解説風になりました。エッセーに反省、解説がこめられ過ぎるとうるさくなるのですが、本作の結びにはユーモアがありますからね、効果的であるといえましょう。
お子さん方に、音読してさしあげてくださいましね。


通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは

全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は講座の受講期間の半年間、毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。