2026年07月31日

<ハルメク エッセー講座作品集>「お豆さん」清山實希子さん


随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。第12期が7月から始まりました。ハルメクeventsでは、参加者の提出作品の中から山本さんが選んだ作品を公開しています。
第12期1回目のテーマは「呑気」。清山實希子さんの作品「お豆さん」と山本さんの講評です。


お豆さん

昨夕から警報級の大雨がしきりと降り続いている。長崎空港を抱く街にあるわが家は高台に建つため、ふだん通り自宅で過ごせている。


扇風機の強風によって完成したばかりの干しゴーヤーを仕舞おうと引出しを開けると、うぐいす色の少しくすんだ豆と目が合った。赤い輪ゴムでくくったピンポン玉ほどのビニール袋。乾物を使うたび、そっと目をそらしてきた2024年2月賞味期限切れの緑豆だ。この際だと思い、引出しの中のお豆さんたちをかるくひとつかみずつ木箱のもろぶたにひろげた。
緑豆、唐津産。大豆、佐賀産。在来種のちいさな黒豆、宮崎産。小豆、白小豆、金時豆、黒大豆、北海道産。ひよこ豆、カナダ産。お豆さんたちに触れているとうきうきしてくる。
ちいさな黒豆を木箱に入れ、ゆっくり長円を描くように動かすと、コロコロ、コロコロと黒い粒つぶがこぼれそうに跳びはねながら駆け出してゆく。
四角の白いホーローで小豆を動かすと雨のような音だ。
ザーッ。ザーッ。
ザーーーッ。ザーーーッ。
懐かしい音。唐米(とうまい)袋から小豆を出す音である。


わたしの実家は、祖父の代から続く町の小さなあんこ屋。こどもの頃からお豆さんは身近にあった。小学校から帰ると自宅向かいの工場の軒下で、おじさんたちが超特大のボウルや木箱の中に、唐米袋から小豆をひろげ目の粗さの違うザルを使い分けしながら小石、わら等のくずを除き、あんこ用の、豆を手選(てよ)りするようすを幾度と見てきた。
ザッ ザッ ザッ
ザーーーッ。ザーーーッ。
昼下がりの光と匂いとときどき混ざるタバコの煙とともに、わたしにとって心地よい音の記憶。
豆にある一本線は「へそ」だと父が云っていた。「へそ」から吸収するそうだ。


さて、わたしのお豆さんだちは、水煮にしよう。洗った豆と水を鍋に入れ強火にかける。沸煮後火を止め、蓋をして半日から一晩置く。緑豆と大豆はスープジャーに入れ、小豆、ひよこ豆、金時豆は、それぞれ水筒3本に納めた。黒大豆、黒豆は片手小鍋。まとまった量があった白小豆は、両手鍋へ。
今日はここまで。せっかちなわたしだが、お豆さんを煮るじかんは、待つ楽しみがやさしく流れる。


翌朝、おへそからいっぱい吸水したお豆さんたちは、ふくよかまんまるな、しあわせの形に蘇った。緑豆もつややかに。よかった。
そのまま食べてもスープに入れても甘味も美味しい。8種のお豆さんのマリネは、夕食の一品にしよう。明日の天気は晴れ予報。


山本ふみこさんからひとこと

お豆さんがいっぱい登場して、わくわくしました。
お豆さんたちの産地、それぞれの煮方が記されているのにも、感心しました。
そんな事ごとは作品におもしろみと、厚みを加えます。
具体的に書くことは大事ですけれども、どう具体的に書くか、というところには、どうしてもセンスがあらわれます。ちっちゃなこと、読み手の誰にもわかりやすいことを紹介すると、お豆さんたちの存在がくっきりと浮かびあがります。
音の表現も、素敵。丹念なスケッチに拍手を送りたいと思います。


通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは

全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は講座の受講期間の半年間、毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。