2026年01月31日

<ハルメク エッセー講座作品集>「親戚が泊まる」米澤千枝 さん


随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。ハルメクeventsでは、参加者の提出作品の中から山本さんが選んだ作品を公開しています。
第11期1回目のテーマは「布団」。米澤千枝さんの作品「親戚が泊まる」と山本さんの講評です。


親戚が泊まる

生まれ育ったのは四国の山あいの小さな田舎町である。子どものころは今と違って、冠婚葬祭などの行事はそのほとんどを自宅でしていた。40年ほど前の、昭和の終わりごろの話である。
とくに多かったのは法事で、そのたびに親戚が50人近く集まった。
そして遠方からくる親戚はきまってわが家に何泊かするのが常だった。
多い時で12、3人泊まっただろうか。

みなが寝る時間になると、人数分の布団を敷かなければならない。
こういう時のために、廊下の奥のつきあたりに、大量の布団をしまっておく専用の収納部屋があった。四畳半くらいの広さで頑丈な棚があり、掛け布団に敷き布団、枕やシーツなどがぎっしりと詰め込まれていた。
そこから数人がかりでバケツリレーならぬ布団リレーで、次々と布団を運びだす。
よく手伝いをさせられたが、昔の綿の布団は厚くて重く、小学生のころはすぐにへたばってろくに運べなかった。
そんな私をみて大人たちは「力がないなあ」とか「ほら、もっとがんばりな」などといって笑うのだった。子どもだからしかたないでしょと毎回口をとがらせていたが、それでも大人にまじって大勢でわいわいとするこの作業を私は嫌いではなかった。
2間つづきの客間と、ふだん居間として使っている部屋にも布団を敷く。さらに私の部屋には従姉妹たち、祖母の部屋には叔母たちといった部屋割りで、また夏場などは板間の廊下にも敷いていた時があったように思う。家のなかで親戚中が雑魚寝状態だった。

数年前には祖母のお葬式もした。
客間に祭壇をたて、遺影やお花をかざり、その前に祖母の棺を静かにおいていた。
葬儀の前の日の晩、家族はなかなか手がまわらず、親戚たちはそれぞれ勝手知ったかんじで布団部屋から布団をひっぱり出し、てきとうに寝はじめた。
祭壇があるため座敷が狭くなっていたこともあるが、棺のすぐ前にまで布団を敷いて寝ている人がいて、ふと笑ってしまった。しかもぐうぐうとイビキまでかいている。
こんな時にそんなところでよく寝られるなと思いながら、大好きな祖母が亡くなって悲しさに沈んでしまいそうだった私は、それで救われた気がしたのである。
棺のそばでなんの抵抗もなく寝られるのは、私と同じように祖母のことを好きでいてくれたからだなと思った。

そして、さみしいのはあなただけじゃないよ、わたしたちがいるからねと、雑魚寝状態の親戚中からいってもらっているような気持ちになった。


山本ふみこさんからひとこと

リズムのいいエッセーです。
ちょっぴり寂しい気持ちもこもっているけれど、トントンの読んで、読後、胸に明るいものがひろがります。
「音読」しながら書くと、このリズムが実現します。このたびの皆さんへの青ペンも、多くはリズムを考えて入れました。


「通信制 山本ふみこさんのエッセー講座」とは

全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は講座の受講期間の半年間、毎月1回出されるテーマについて書き、講師の随筆家 山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。


第11期作品集・第1回テーマ「布団」

「朝のルーティーン」けらけらさん
「とおい きおく」堺なおこさん
「おわわ」大井洋子さん