2026年01月31日

<ハルメク エッセー講座作品集>「おわわ」大井洋子 さん


随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。ハルメクeventsでは、参加者の提出作品の中から山本さんが選んだ作品を公開しています。
第11期1回目のテーマは「布団」。大井洋子さんの作品「おわわ」と山本さんの講評です。


おわわ

母方の祖母は、まだ若いときに夫を不慮の事故で亡くしました。
早朝から夕方遅くまで田んぼで働き、1人で幼い娘4人を育てたので、わたしが幼少のころには、祖母の腰は曲がり髪も白くなっていました。

夏休みと冬休みに、母の里帰りについて行きましたが、祖母には厳しい雰囲気があり、気安く話したことはありません。
でも、家族は祖母を「おわわ」と呼び、なんでも相談して敬っているのを感じました。
いつも体を動かして、働く姿を見せながら、社会性や責任感を教え、子どもたちにどう生きるかを伝えていたからだと思います。
その教えを大切にしていた母は、わたしが嫁ぐときにこう言って諭してくれました。
「あの人がああ言うておられたと、他の人に言ったら筒抜けになるから、人の言うことは黙って聞くだけにしられ。それが出来んかったら、井戸端会議には加わらんことだよ」

ある年のお盆、袖が振り袖のように長い浴衣を、おわわが縫ってくれていました。そんな浴衣を着ている子どもは誰もいません。
わたしは嬉しくて、袖をヒラヒラさせながら、墓参りと盆踊り大会に行きました。

一度だけ、おわわが我家に来てくれたことがあります。
その日、大きな四角い袋から、長方形の薄い綿を取り出して何枚も重ね、母と一緒に新しい布団を作ったのです。
わたしは、裏返しにした布団の表布と、成形した綿の四隅を押さえるのを手伝っただけでしたが、表布を綿とともに表に返すと布団ができあがったことに驚きました。
その日は小春日和で、北陸の晩秋には珍しく家の奥まで光が届きました。
2人がていねいに布団を作っていく時間と、明るい光が重なり合い、その光景がスポットライトに照らされた無言映画のような記憶となっています。

60年も前の正月に用意してくれた、朱色と黒の市松模様のマフラーを、今でも箪笥の奥にしまっています。それを目にすると、縫ってくれた浴衣や布団、買ってもらった少女漫画雑誌のことを思い出して、忙しい中でも外孫のわたしのことを気に掛けていてくれたおわわのことが脳裏に浮かんでくるのです。
わたしは足元にも及びませんが、せめて彼女の生き方を子や孫に伝えていこうと思い巡らせています。


山本ふみこさんからひとこと

おわわ おばあさまのような女(ひと)、少なくなりましたね。
その佇まいに接し、生き方を敬って過ごした大井洋子さんは、受け継いでおられるのではないでしょうか(これまで読んできた作品からも、それを感じます)。
愛情深く考え深い、そうして働き者のおわわ おばあさまのおはなしを、皆さんと共有できることを、うれしく思います。
読書とは、書き手、登場人物との会話だなあ、とあらためて噛み締めています。


「通信制 山本ふみこさんのエッセー講座」とは

全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は講座の受講期間の半年間、毎月1回出されるテーマについて書き、講師の随筆家 山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。


第11期作品集・第1回テーマ「布団」

「朝のルーティーン」けらけらさん
「とおい きおく」堺なおこさん
「親戚が泊まる」米澤千枝さん